バックウォーター現象
2020.07.07
 
今回、洪水災害に見舞われた熊本県南端部の人吉市のお話です。

人吉市の中央を「日本最後の清流」といわれる四万十川にならぶ、球磨川(くまがわ)が流れています。

現熊本県知事の蒲島郁夫(かばしま いくお)氏は、2008年の初当選から半年後の9月、「ダムによらない治水対策」をかかげ、国営の「川辺川ダム」の建設反対を表明しました。

彼は、「治水安全度を上げるには、ダムしかないというのは河川工学的には正しいだろう」とダムの必要性を認めていました。

その一方で、「『球磨川そのものが宝』と考える流域住民の誇りを大事にし、ダムによらない治水を極限まで追求するという結論は、今もまったくブレていない」と、地元の熊本日日新聞のインタビューで述べています。

結果、人命にかかわる治水よりも、“流域住民の誇りが大事”という「詭弁」とともに、当時の「民主党政権」は、翌2009年9月に「八ツ場ダム」などとともに、マニフェストに「川辺川ダム」の建設中止を掲げました。


川辺川は、人吉市の上流1kmほどのところで球磨川に合流します。

こう書くと、川辺川は“支流”かのように思われると存じます。

ですが、アバウトで流路延長約70km、流域面積約550kmの川辺川は、全球磨川水系の3分の1を占め、人吉市上流の合流部までにかぎれば、主流の球磨川よりも大きい水量や流域面積を誇っているのです。

要は、人吉市上流に限定すれば、球磨川よりも大きいのが川辺川なのです。


かつて球磨川は、1963年から3年連続で大水害が発生しました。

そこれを受けて、国は翌1966年に洪水防止のために、九州最大級の「川辺川ダム」建設計画を発表しました。

当該ダムの最大の受益地である人吉市をはじめ、流域市町村は「ダム建設促進協議会」をつくり、建設を後押ししてきた歴史や経緯があります。

ところが、蒲島県知事は、そのような流域住民のダム建設促進の経緯を無視し、逆にダム建設に反対する左派の意をくんで「『球磨川そのものが宝』と考える流域住民の誇りを大事にし…」と、一方的な“ウソ”の理由で、当時の「民主党政権」の決定によって「川辺川ダム」は建設中止に追い込まれてしまったわけです。

このことが、今月2020年7月の大災害と犠牲につながったのは、ほぼ確実です。


球磨川では、今回、8か所にもおよぶ氾濫を起こし、警察庁によると、昨日6日までに水没した球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」の入居者で心肺停止状態だった14人を含む、22人の死亡を新たに確認し、亡くなった人は、計44人におよぶと発表しています。

それ以外にも、1人が心肺停止、10人が行方不明になっているという現状です。

人吉市では今回、最大で9m以上も浸水した地域が確認されています。

球磨川中流域の人吉市は、周囲を山に囲まれた盆地で、上流域の球磨川や川辺川の洪水は、人吉盆地に集まることが知られています。

ところが、人吉市の直下の下流は、およそ60kmもの峡谷が続く地形です。

そのため、集中的に大雨が降ると、洪水の流下が阻害され、人吉盆地に洪水が滞留する「バックウォーター現象」が起こるのです。

それが9m以上の浸水を招いた理由で、同時に、過去に連続して人吉市で大水害が生じた理由でもあります。

それゆえ国は、球磨川上流域には、すでに市房ダムや幸野ダムがあるために、人吉市上流域で最大の流域をもった川辺川に、九州最大級の「川辺川ダム」の建設を計画したわけです。

熊本県また人吉市に住む為政者である以上、蒲島県知事もまた学者でもあったことから、このような地形をはじめ過去の大洪水を知らないはずはありません。

実際、「川辺川ダム計画」の対象地域の立ち退きや、移転先への移転は済んでいたのです。

それを「左派政党」や、それにくみする「市民団体」また「弁護団」は、“反対運動”や“訴訟”を起こし、当時の人吉市長もそうですが、蒲島県知事もまた「民主党政権」も、八ツ場ダムなどとともに川辺川ダムの建設中止を決定してしまいました。

一方の「八ツ場ダム」の場合、その後、自民党政権で建設継続となり、昨年2019年3月に完成し、テストを行なっていました。

そこに起きたのが、「令和元年東日本台風」と呼称される10月の台風19号による首都圏の大水害でした。

テスト中にもかかわらず、「八ツ場ダム」は満々と水を蓄え、水害を最小限に防いだのです。

それに比べて、建設中止のままだった「川辺川ダム」は、今回の大水害と犠牲を招く結果になりました。


結局、「ダムによらない治水」を掲げた蒲島県知事は、今回の大水害と犠牲に対し、7月5日の会見で「ダムによらない治水を目指してきたが、費用が多額でできなかった」と述べています。

つまり、“費用”を理由に実質的には、何もしてこなかったことが明らかになりました。

ちなみに、「川辺川ダム」の建設はストップしています。

ですが、全面中止になったわけではなく、書類上は生きています。

そのため、今回の大洪水と犠牲を機に、復活する可能性がないわけではありません。

というか、今後の集中豪雨が続く以上、相応の環境保護は必要とはいえ、それ以上に人命と流域住民の安全を考えて再度、建設に踏み切るのがスジだといえます。

もし、そうなったとき、建設反対を唱えていた左翼勢力や、蒲島県知事はどのように動くのでしょうか。









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